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『辞書を編む』

辞書を編む (光文社新書)

辞書を編む (光文社新書)

 

 

先日、『言葉の海へ』(高田 宏著)という本を読んだ。 これは、日本初の近代国語辞書を編纂した大槻文彦という人の生涯を描いたものだったが、辞書編纂そのものというよりは、編纂した大槻文彦の生涯、彼が生きた時代の背景など、どちらかというと歴史的、政治的な面がクローズアップされていた感があり、私自身が知りたいと思う内容ではなかった(当然、日本初となる近代国語辞書という、初めてのことを成し遂げた話しともなれば、辞書編纂の作業よりも、その時代背景や関係人物の説明も重要だということはわかるが)。 そこで、今回はもっと辞書編纂という作業自体の話しが書かれている『辞書を編む』(飯間浩明著)を読んでみることにした。

この『辞書を編む』、読んで正解だった。 話しの内容は、今までになかった辞書を作るとか、新しい辞書を編纂するとかではなく、既に存在する『三省堂国語辞典』の第6版から第7版に改訂する作業についてだったが、辞書編纂作業の流れはしっかりと伝わっていると思う。 新たに辞書に加える言葉の用例採集から始まり、採集した語彙や慣用句などの取捨選択、採用が決まった言葉の語釈を書くという流れと共に、前回の第6版が出版されてからずっと継続的に行われている従来項目(第6版に収録されている言葉の語釈など)の「手入れ」作業。 『辞書を編む』には、「手入れ」とは“文字通り従来の項目の文章を書き換えたりして、手を入れる作業”(p.184)とある。 これらの作業はもちろん一ヶ月や二ヶ月で済む話しではなく、地道で時間のかかる作業で、読んでいるほうまで気が遠くなってしまいそうだった。

私自身は国語辞典の愛用者というよりは、学生の頃から外国語学習のために辞書を使い、その後も、海外で生活していた関係もあり、どちらかというと英日辞典とか中日辞典といった、外国語の言葉に日本語の意味をつけた辞書を使う機会のほうが圧倒的に多かったのだが、『辞書を編む』の中で、用例採集と語釈に対する著者の態度というか姿勢には感謝の気持ちさえもった。 実際に使われている言葉、誰が読んでもストンと納得できる語釈。 これは、辞書なんて皆同じようなものだと思いがちだが、いざ、その言葉の意味を知る必要があるからこそ引いてみると、その言葉が載っていないとか、語釈が他の類義語一語で済まされていたりすると、がくっとするというか、苛立ちさえ覚えることがある。

『辞書を編む』は著者が実際に携わっている『三省堂国語辞典』の改訂作業という、とても具体的な話しだったが、それでも辞書がどうやって作られていくのか、利用する側の人間ではなく、あらゆる環境や状況にある利用者のことを考えながら辞書を作っている人の側からの視点を垣間見ることができ、おもしろく読むことができた一冊だった。