柳田邦男氏が、自分の少年時代や青年時代に読んだ本をもう一度読んで書いたエッセイ。 十代や二十代前半に読んだ作品を中高年になってから読むと、以前は気にもとめなかった箇所がとても新鮮に感じられたり、考えさせられたり、いろいろな新しい発見があったりと、自分でもう一度読んでいるわけではないのに、一緒に読んでいるような感じになる。
このエッセイを書くにあたり、どの本を読むか始めからきちっと決めて取り掛かったわけではなく、まず読みたい本を数十冊取り出し、その中からその都度選んだらしい。 ただ、下記の目次を見るとわかるが、エッセイは一応四つのグループに分けられている。
この本に登場する作品は青空文庫で読めるものもあるので、時間のある時などにちょっと読んでみるのもいいかもしれない。
自分用のメモも兼ねて、目次を以下に書いておく。
目次
青春について
- 井上靖『あすなろ物語』-自己形成の情景
- ヘルマン・ヘッセ『青春彷徨 ペーター・カーメンチント』-二十七歳で人生を使い古して
- トオマス・マン『トニオ・グレエゲル』-内面の二面性に苦しむ青春の賦
- 芥川龍之介『侏儒の言葉』-人生の出発「我笛吹けども」
- 太宰治『ダス・ゲマイネ』-だから駄目なんだ。 走れ
- 三好達治『測量船』他-私は一人で行こう、口笛を吹いて。
悲しみについて
- 森鴎外「最後の一句」「高瀬舟」-昔物語と当世人情事情
- 志賀直哉「小僧の神様」-トリックスターに魅せられて
- オー・ヘンリー「賢者の贈りもの」他-古典落語に通じる愛しき庶民像
- 小林秀雄「モオツァルト」-ト短調は万葉の「かなし」か
- アーネスト・ヘミングウェイ『老人と海』-虚無とロマンティシズム
- エドガー・アラン・ポー「早すぎる埋葬」-生きながら埋葬される恐怖
生き方について
- 有島武郎『生まれ出ずる悩み』-画家を目指す青年の暗愁
- 島崎藤村『千曲川のスケッチ』-百姓への愛着と文学革命
- 尾崎喜八『山の絵本』-驚きをもって見る童心の豊饒
- ジェイムズ・ヒルトン『チップス先生さようなら』-新鮮な英国保守主義の神髄
- サン=テグジュペリ『夜間飛行』-大空が明るかった時代の記念碑
- 堀辰雄『風立ちぬ』-「生と死」への一つの答
人間について
- 大岡正平『野火』-剣を持つ右手を抑えた左手
- アルベール・カミュ『異邦人』-体制の暗喩としての「太陽」
- フランソワーズ・サガン『悲しみよ こんにちは』-鋭利な言葉で父の女を刻む少女
- ギー・ド・モーパッサン『脂肪のかたまり』-娼婦の涙に映る人間どもの本性
- サマセット・モーム「雨」-心の殻を脱がせる長雨の悪意
- ゴーゴリ「外套」-抹消される庶民への追悼